夏の夜になると思いだす。
高校時代、私の部屋は2階。
友達が、窓に割れない程度の小石をぶつけてくる。
勉強熱心な高校生ではなかったので、
遅くまでパンクロック聞きながら、詩を書く日々。
唐突にコツーンと窓に石が当たる音。
下を覗き見ると、チャリンコ乗った同級生が、
してやったりの表情でニタついている…。
お前は夜中の2時に何やってんだ!
え?公園?
待て!親が起きるから、あんまり騒ぐな!
わかった、とりあえず降りるから。
。
。
携帯も無い時代。
俺らは小石を使って合図したっけな。
あてもなく、抜け出した家。
目指す、深夜の公園。
。
。
池のボートはギッシギシにつながれていて、
街灯には、不思議と虫の一匹もばたついていない、静かな夜。
夜の公園は不思議な匂いがする。
湿った池の藻が夜風に吹かれる香り。
あれこそまさに、青臭い「青春」だ。
。
。
アイツが持ってきたタバコに、
俺が持ってきたライターで火をつけて。
自販機で買った砂糖タップリの炭酸飲料をグビグビやりながら。
免許、彼女、バイク、音楽の話を永遠に繰り返す。
非行と呼ぶには、早いよ、おまわりさん。
あれは俺にとって、本当に大切な時間だったんだ。
。
。
馬鹿なアイツは駅のホームでタバコに火をつけ、
そのまま停学。
だから、今度は俺がアイツの家を自転車で目指す。
小石を放り、窓にコツーン。
大人の階段を登る不安。
将来への1歩を踏む躊躇。
蛍光灯はそんな不安定な夜を遠慮なく照らしている。
アイツの部屋も。
アイツの部屋も。
アイツの部屋も。
外から見る、友達の部屋の明かりはどれも頼りなく。
夜も更けているのにいつまでも、消える気配は無い。
そこにコツーンと小石をぶつける。
してやったりの笑顔を浮かべて。
その不安な夜を共に過ごそう、深夜の公園で。
。
。
思い悩む、大人の俺。
もう寝たらいいのに、ズルズル起きている深夜。
誰か、俺の窓にコツーンとやってくれないか。
すぐに降りていくよ、タバコはやめたがね。
あてもなく、どこかへ。
☆星野 智哉☆